『アンメット』にも見られた記憶障害の演出が乱立している背景にあるものとは?【小林久乃】
◾️すれ違うふたりに胸ときめかせた平成ドラマ
思い返すと平成に放送されたラブストーリーでは、登場人物たちがすれ違ってばかりいた。1991年放送『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)では、オープニング映像にはおもむろに公衆電話が並んでいた。カンチ(織田裕二)とリカ(鈴木保奈美)が連絡を取るのはポケベルか、1990年代前半ではまだ貴重で、やたら大きかった携帯電話。好きな相手と連絡を取るのは、家電か会社内の電話がベースだった。そして会えなければ主人公は走るか、泣くしかない。
ドラマのみならず、ヒット曲もすれ違いの連発。平松愛里『もう笑うしかない』の歌詞では
「ドアの前で待ち続けよう 降り出した雨に 空車のタクシーもないけど」
と、恋人を待ち伏せる。今なら近隣の住民に警察へ通報されそうな行為も、当時はすれ違うふたりの盛り立て役だった。
『29歳のクリスマス』(1994)、『ロングバケーション』(1996)でも大きな進化はなく、自宅で相手からの電話を待ち、留守電のサインが点滅していると心が躍る。会おうとするなら待ち合わせるか、自宅突撃も普通だった。でもこれが本当に観ていて楽しかった。なぜなら実体験とリンクしていたからだ。携帯電話が当たり前ではなかった当時、私もトラックドライバーだった恋人を待ってクリスマスの夜、自宅で待ち伏せていたことがあったっけ。彼が夜勤とも知らず、サプライズを仕掛けようと取り立ての免許で、買ったばかりの軽自動車で待っていたら、気づけば朝だった。ああ、寒かった。